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「いや、大したことじゃないんだけど。立花さんが嘘を言っているっていうんだよ」
僕は苦笑する。やっぱりそんなことは無いんだろうと思いながら。
「嘘?」
「そう、立花さんが僕の婚約者って言っているのは嘘だっていうんだ」
一瞬。空気が変わったのが分かった。僕は立花さんに視線を送る。立花さんはうつむいていて表情は見えない。
「立花さん」
「……要。それ本気で言っているの?」
「いや、そんなことは」
「大したことないって」
立花さんの肩は震えていた。泣いているのだろうか。怒っているのだろうか。
「大事だよ!」
立花さんは立ち上がって僕の頬を平手で思い切りひっぱたいた。甲高い音が響く。立花さんはそのまま走り去ってしまう。
僕は呆然としたままそれを見送ることしかできない。
「一体何してるんですか!」
また後ろから声をかけられて振り返るとそこには四季が立っていた。
「すぐ立つ!」
言われて僕は反射的に立ち上がる。
「すぐ追いかける!」
立花さんが走り去った方を指さしている。僕が躊躇すると、思い切り背中を叩かれた。
「走れ!」
背中を叩かれた勢いで僕は走り出す。
「立花さんの事大切にしないと駄目ですよって言いませんでしたっけ?」
僕と並走しながら四季が話しかけてくる。
「言われたね」
走りながら答える。
「何であんなひどい事言ったんですか」
「ひどい事?」
「はあああ」
走りながらため息を吐くという器用な芸当を四季が見せてくる。
「婚約者だって嘘をついてるなんて言って良いことじゃないですよ。もちろん、疑う気持ちを持ってしまうのは仕方のない事かもしれませんけど、好きだからこそ持ってしまうものだと思いますけど。それでも、それは口に出しちゃいけないセリフですよ」
確かにそうかもしれない。僕の気遣いが足りなかった。
「そうだな。僕が悪い。きちんと謝らないと」
「そうですね。しっかり誠心誠意謝ってください。そもそも、そんな立花さんが婚約者じゃないなんて話信じるほうがどうかしているんですよ」
まさに憤慨といった感じで四季が言う。
「僕だって立花さんが嘘ついているとは思わない。でも、じゃあどうして皆立花さんの事を知らないんだ」
「単純ですよ。立花さん以外の全員が嘘をついているからです」
あっさりと言ってのけた。
「は? どうして、そんな事を」
病院の駐車場を出て歩道を走る。
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