第1章

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 立花さんの表情がぱっと明るくなった。 「良かった」 「あの、すいません。こんな状況で聞くのも何ですけど、はっきりしておかないといけないと思うので聞いてもいいですか?」  これを聞けばまた泣きそうな顔をするのかもしれないなと思うと口が重くなるが、どうしても聞いておかなければならない。 「何? 何でも聞いて?」 「僕と、あなたはどういう関係なんでしょうか?」  今日一番の泣きそうな顔をした。いや、むしろ一粒の涙が瞳から零れ落ちた。 「いや、ごめんなさい」 「ごめん。こっちこそ。要は記憶喪失なんだもんね。覚えてないよね。……複雑な気持ちだけど、あらためて自己紹介するね。私は立花明日香。……君の婚約者です」  僕は思わず口をあんぐりと開けた。 * * * 「奇麗な人でしたね」  僕が自分の意識を取り戻したのは「色々持ってくるものがあるだろうから一度帰るね」と立花さんが言って出て行った後、隣のベットで本を読んでいた中学生ぐらいの少女が僕に声をかけてきた時だった。 「あ、ああ」  僕は隣の少女を見やる。ベットの柵にかけられている名札には「四季」と書かれている。 「すいません。ちょっとお話が聞こえてしまったので」 「いやいいんだよ。別に隠していたわけじゃないからね」  僕はまだショックから立ち直り切れていないまま四季に答える。 「ねぇ。あの人」  僕は四季に向かって思わず聞いていた。 「本当に僕の婚約者だと思う?」 「違うんですか?」 「いや、正直記憶喪失だから分からないんだけどね」  どうにも腑に落ちない気分だった。 「信じられませんか?」  そう。信じられないのだ。自分にあんな奇麗な婚約者がいるとは思えない。 「ちょっとね」  鏡を見ても自分の顔が良いとは思えない。どちらかと言えば冴えない顔だ。 「でも、あの人、立花さんは木目沢さんの事好きなのは間違いないと思いますよ」 「どうして、そんな事が分かるんだい?」 「女の勘です」  どや顔で言い放つ四季に思わず吹き出してしまう。 「何で笑うんですか。失礼な人ですね」 「ごめんごめん。申し訳なかったよ」  まだ不満そうな顔をしていたが、僕が手を合わせて頭を下げると溜飲を下げてくれたのか、肩をすくめて許してくれた。 「でも、本当に大事にしてあげてくださいね」 「ああ、僕にはもったいないぐらい奇麗な人だからね」 「そういうことではなくて」
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