第1章

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 扉の外にはスーツを着た初老の男性が立っていた。初老の男性はすぐに僕の姿を見つけるとベットに駆け寄ってきた。 「要探した! 探したぞ!」  僕の手を取り、何度も何度も上下に振る。 「えっと。すいません。誰ですか」  僕は困惑したまま尋ねる。 「ちょっと、困ります。すでに面会時間は終わっているんですよ」  ぜーはーと息を切らせている看護士さんが扉から叫ぶ。初老の男性の後ろに立っていた若い男が看護士の前に立ちはだかる。 「よい」  初老の男性が一言言うと、男は両手を後ろに組みなおして道を開けた。 「すまんな。ナースくん。要約見つけた孫なのでな。しかも怪我をしておると聞いて心配で心配でしょうがなかったのだ。すまんが、後数分間だけ時間をくれないかな」  初老の男性が頭を下げると、看護士はじりりと後ずさりをした。 「少しだけですよ」 「助かる」  言って、もう一度頭を下げた初老の男性は僕に向きなおる。 「さて、要。色々言いたい事はあるが、今は聞いての通り時間がない。要点だけを話そう。  記憶喪失になっているということだが、心配するな、私と要。君は今が初対面だ。私は木目沢忠文という。要、お前の祖父にあたる。母親の父親というやつだな。昔結婚を反対して飛び出して行った娘をようやく見つけたと思ったらすでに事故でなくっていてな。その息子も今回の事でようやく見つけたのだ」  いろいろな情報が頭に飛び込んできて整理しきれない。パニックになりそうだった。 「まぁ、いきなりの事で驚いているだろうが、要お前は一人ではない、困ったことがあったら私に頼ってこいと言いたかったのだ」 「はぁ、ありがとうございます」 「高木連絡先を」  高木と呼ばれた男は僕に一枚の名刺を渡す。裏には手書きの住所と電話番号が書かれていた。 「じゃあ、邪魔したな。また退院したらゆっくりと話そう」  がははと笑って病室を後にする。看護士にもう一度頭を下げて出ていく。高木も後ろをついて出て行った。 「嵐のような人だった」  僕が思わず呟いた。 「実はすごい人なんですね。木目沢さんって」  隣のベットから四季が言った。 「何が?」 「さっきの人。木目沢忠文って。木目沢財閥の会長ですよ」  木目沢財閥と言えば、日用品から自動車まで様々なジャンルに手を出している会社グループだ。 「まさかぁ。そんな事あるわけないよ」  そう言って、僕は布団にもぐりこんだ
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