第1章

6/12

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
* * *  でも、本当だったらしい。翌朝には僕が木目沢忠文の孫というのは一部の業界で知れ渡っていて、病院に何人かの記者やテレビが僕に取材がきた。 「一体どうしたの?」  朝からお見舞いに来てくれていた立花さんが驚いて聞いてきたが僕は笑ってごまかした。  昼過ぎには一時間後ぐらいに会社の同僚達が見舞いにやってくるというメールを携帯にもらった。 「会社の人が来るんだったら私は帰るね」  そう言って帰って行った立花さんの後に病室にやってきたのは。上司の新田さん。同僚の中村と本田だった。思ったよりも元気そうだと肩を叩いて笑ってくれた。 「仕事の事は心配しなくてもいいから。ちょうどいま大きな仕事が決まって会社も安泰だからな」  新田さんの言葉が引っ掛かった。 「俺たちにまかせとけよ」 「職場復帰した頃にはお前の立場なくなってるかもな」  笑いながら茶化す中村と本田の「ひどい事言うなよ」と返したりしているうちに時間は過ぎていった。 「そろそろお暇するか」  三人が病室を出ていくのを見送ると、入れ替わりに高木が病室に入ってきた。 「同僚の皆さまはお帰りになりましたか」  僕はうなずく。高木はベットの横の椅子に座ると思案顔をした後言った。 「木目沢様。私は一つ申し上げたい事があるのですが」 「なんでしょう?」 「今日、朝お見えになっていた女性の方ですが」  一瞬言葉を迷ったようだったがすぐにまた言葉を続ける。 「あの立花さんというのは木目沢さんとのご関係は何ですか?」  大仰な言葉を使われて戸惑う。 「いや、何というか。婚約者……ですけど」  自分自身で婚約者というのは何とも照れくさい。 「言いにくいですが。本当にその立花という方は木目沢さんの婚約者ですか?」 「どういうことですか?」 「そのままの意味です。立花さんというのはおそらく木目沢さんの婚約者ではないのではないかと」 「え?」  何を言っているのか分からない。 「あの立花という女は木目沢さんが記憶喪失ということを逆手に取って婚約者の振りをしているのではないかと」 「どうしてそんなことをする必要があるんだよ」  僕は思わず声を荒げていた。 「怒るのは分かりますが、少し落ち着いてください」  高木の落ち着いた言葉に僕は思わず口をつぐむ。 「木目沢さん。あなたは立花さんと会った時何か一つでも記憶を思い出しましたか?」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加