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「やっぱりかよ! なんだよ。誰だよあれ。お姉さんか? そんなわけないか。顔似てなさすぎるもんな。誰だよ。彼女かよ」
「知らないのか?」
僕の言葉に中村も本田も首を傾げる。
「知ってるわけないだろ」
「僕の婚約者だよ」
「マジかよ!」
二人の声が重なった。
「じゃあ、今日は退院祝いと婚約祝いを兼ねて酒盛りだ!」
中村がグラスを掲げて乾杯をする。僕もとりあえずグラスを合わせたが、場の空気とは別に僕の気分は下がりっぱなしだった。
* * *
それから、会社の上司や、他部署の知り合いだったらしい人たちに軽く探りをいれてみたけれど、立花さんを知っている人は誰もいなかった。それどころか、僕に彼女がいたというと全員が驚いていた。
「なんだかなー」
僕は病院の中庭のベンチに座って空を仰いでいた。立花さんが僕の彼女だと知っている人は誰もいなくて、言っているのは本人だけ。
「あー。気分が悪い」
自分が立花さんを疑っているのかもしれない。そう考えること自体が嫌な気分だった。
「あ、こんなところにいたんだ」
僕の顔をのぞき込むようにして立花さんが立っていた。
「うわっ」
顔が近くて驚いた。
「何、どうしたのそんな変な顔して」
「いや、別に」
「嘘だ」
立花さんが人差し指を突きつけてくる。
「別にっていうときは大体考え事しているときだから。しかも悪い事。お姉さんに話してみなさい」
胸を張って言ってくる。
「立花さんは、僕のどこが好きなの?」
「へ?」
僕の質問に立花さんが素っ頓狂な声を出した。
「何、その質問。いやちょっと待って」
なぜか手櫛で髪を整えながら立花さんが言う。視線が泳いでいた。
「いや、ちょっと不思議に思って」
「うん。そのなんだろう。あのその。あれだ。好きだから仕方がない」
慌てふためく姿が妙に可愛らしかった。
「意味わからないよ」
「好きに理由をつけようってのがナンセンスなんだよ」
なぜかドヤ顔で立花さんが言った。
「本当になんでそんな事聞くの?」
「いや、どう考えても僕なんかが立花さんの婚約者って言うには釣り合ってないと思ってさ」
「それ以上言うと怒る」
真顔で立花さんが言った。むしろもう怒っていた。
「ごめんごめん」
「分かればいいの」
立花さんは表情を緩めてくれた。
「いや、前に高木さんが変な事言っていたから」
「変な事?」
僕の座っているベンチの横に立花さんが座る。
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