Forget-me-not

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「もう随分と私も歳をとってしまいましたよ、あなた」 キッチンのテーブルの上にある写真を眺めながら、私はそう独り言をもらした。お昼の食事を終えたところだった。 「ふふ、あなたと此処に住みたいと言ったのは私だったものね。今更、離れてどう過ごせばいいのか私には分からないのよ」 ほんの少し、寂しさが心を掠めた。 夫が他界して、6年が経とうとしていた。ひとり暮らしの寂しさを、感じないといえば嘘になるのかもしれない。けれど、それ以上にここには思い出がありすぎる。 ワンッ、ワンッ もう長いこと飼っている、ゴールデンレトリバーのドリーだった。 大きな体でしっぽを揺らしながら、足元にご飯の催促にきたようだ。 「あらあら、ごめんなさいね。あなたもお腹が空いてるわよね」 そそくさとご飯の準備をしてあげる。 ドリーは喜んでお皿に顔を埋めていた。 「あなたも、もうなかなかのおじいちゃんよね。どちらが長生きできるかしらね」 背中を撫でながら、そう呟いた。 ドリーと名付けたのは、夫。オードリーヘップバーンが好きだという理由だそうだ。保健所に連れて行かれそうになっていたところを引き取ってきたのだと言って、それはそれは嬉しそうに名付けていた。 「この子はオスよ」 と私が言うと、 「ドリーなら、オスでもおかしくないだろう」 と言って譲らなかった。 そんな日々も、遠い遠い昔のことだ。気の遠くなるほどの時間を、私はこの土地で過ごした。
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