13人が本棚に入れています
本棚に追加
「田舎っていうのはみんな、危機感が無さ過ぎるんだよ。老人の一人暮らしなんて、なにが起きても誰も気付かないのに。ましてや、こんな山奥で」
本当に心配をしてくれているのが分かるだけに、あまり強い反論はできなかった。
「ごめんなさいね。私のことを気遣ってくれているのは分かるのよ。でも、私の決めた生活なのよ。たまに来てくれる話し相手くらいは、大目に見てくれないかしら。ちゃんと気を付けるから」
まるでこちらの方が子供のように、私は頭を下げた。
息子がこんなふうに口うるさいのは、決して昔からではない。夫が亡くなった頃からのことだった。
「あまり人に懐かないドリーが懐いてるくらいだし、悪い人ではないと思うのよ。ほら、動物って、人よりそういうの敏感だって言うでしょう?」
「そうだけど…」
息子はそれ以上は何も言わなかった。
その日二人は泊まって、翌日の昼過ぎに帰っていった。嵐が過ぎ去ったような気がした。
二人を見送ったあと、ふいに私はカレンダーを見た。7日のところに丸がしてある。
「そろそろ、あなたの命日ね」
また、テーブルにある写真立てに話し掛けていた。すると、くぅーんと鼻を鳴らしながらドリーが足に擦り寄ってきた。
「どうしたの?」
私は、ドリーのその仕草がよく分からずに首をかしげた。しゃがんで頭を撫でてやると、嬉しいのか尻尾を振っている。
すると、庭の方で聞き慣れた声がした。
「詩津子さーん、いますかー?」
最初のコメントを投稿しよう!