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立ち上がると、やはり私よりも先にドリーが駆け出した。
「珍しいわね、こんなに短い間にまた来るなんて」
「ええ、早く見つけたくって」
そんなやり取りをしながら、私は家の中へと彼を促した。
「ごめんなさいね、少し散らかっていて。さっきまで息子夫婦が来ていたの」
珈琲と紅茶を運びながら、私はそう言った。佳代子がほとんど片付けをしてくれたから別段汚いわけではないが、いつもの掃除が出来ていなかった。
「相変わらず、詩津子さんは綺麗好きだね。こんなの散らかってるとは言わないよ」
穏やかにそう言って彼は笑った。
「あ…」
彼の言葉に、ふいに私は記憶を辿る。同じ言葉をどこかで聞いたことがある気がしたのだ。
「どうかしたのか?」
彼は首を傾げて、私の顔を覗く。
「いえ、やっぱりおかしいわね。同じ言葉を以前、誰かに言われたことがある気がしたの。気にしないで」
私がそう言うと、彼もそれ以上は追求せずに違う話題に変えてくれた。
「息子さんといえば、どんな子たちなのかな。たまに顔を見せに来てくれるんだろう?」
「ふふ、子という年齢でもないですけれどね。あ、アルバムがどこかにしまってあったはずだわ。昔のだけれど」
そう言って、私は席を立って自室へ向かった。
――――‥
応接間に残された男が、寂しそうに鳴くドリーの頭を撫でた。
「少し寂しいけど、そろそろ、お別れだ」
そう言って立ち上がると、彼は音もなく部屋をあとにしたのだった。
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