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ミケコの一生の面倒を見るだけの覚悟も甲斐性もなく、ただ自分がいい気持ちになりたいがためだけに、弁当の残りをあげていただけなのだ。
それなのに、ミケコは……。
小池のことを本当に優しい、いい人だと思ってくれていたのだ。
単なる自己満足で餌を与えていた小池に、本気で感謝し……。
逮捕されて姿を見せなくなった小池を捜すために道路に出て、車に轢かれて命を失った。
にもかかわらず、死んでからも小池の前に姿を現わしたのだ。
ただ、一言の礼のために……。
(おじさん……いっぱい、ありがとう)
「ぢぐじょう! 礼なんが言うな!」
泣きながら、なおも地面を殴り続ける小池。彼の拳の皮膚が裂け、血が流れる……。
「俺は……グズだ……俺のぜいで……じんだのに……俺のぜいで……」
小池は泣きじゃくった。両親を喪って以来、泣くことを忘れていた小池……だが、涙が止まらなかった。地面に額を擦り付け、泣き続けていた。
それから三年後。
小池が道端を歩いていると、塀の上からの視線を感じた。
顔を上げると、一匹の黒猫がこちらを見ている。顔がとても大きく、足も太い……まるで山猫のような風貌である。
にっこりと笑う小池。
「よう、アレク」
そう、この猫はアレクという名だ。この周辺を仕切るボス猫、といった感じの貫禄ある佇まいである。普段は、小池が声をかけても知らん顔だ。
しかし、今日は事情が違うらしい。塀の上から、じっと小池を見つめている。いや、正確には小池が右手から下げているケースを。
「お前なあ……うちの子には、手を出すなよ」
そう言って、小池は歩き出した。すると今度は、前から犬を連れた少年が歩いて来る。
「あ、小池さん……お、ついに仔猫を貰って来たんですか?」
ニコニコしながら、話しかけてきたのは小林誠だ。近所に住む動物好きのとぼけた高校生であり、猫のアレクと犬のシーザーの飼い主でもある。強面の小池に対しても、物怖じせずに話しかけてくるような変わり者なのだ。
「そうだよ、誠くん。俺もやっと猫を飼えるようになったのさ。アレクに、いじめないよう言っといてくれよ」
そう言って、小池は笑みを浮かべた。
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