11人が本棚に入れています
本棚に追加
タバコを吸殻入れに投げ捨て、もう一度あたりを見回す小池。こうなったら、タタキ(強盗のスラング)でもやってやろうか。刑務所に逆戻りしても構わない。通行人がいたら叩きのめし、金を奪う。その後は安宿にでも泊まって――
「おじさん」
不意に背後から聞こえてきた声……小池は飛び上がらんばかりに驚き、すぐに振り返る。
そこに立っていたのは、奇妙な若い女であった。オレンジのタンクトップと白のホットパンツを身につけ、黒髪は肩までの長さである。顔は可愛らしいが、いたずらっ子のような雰囲気も漂わせていた。
その女は、大きな瞳で小池を見つめる。
「おじさん、遊ぼ」
「遊ぼ、じゃねえんだよ……てめえ誰だ?」
女を睨みつけ、聞き返す小池。普通の男なら、若く可愛い女からの「遊ぼ」という一言には何らかの期待を抱くだろう。
だが小池は、自分が女にモテないことをちゃんと理解している。これまで女が自分に近づいて来たのは……金目当てか、あるいは罰ゲームだ。
鋭い目で、女を睨み付ける小池……しかし、女は微笑む。
「あたしミネコだよ。おじさん覚えてないの?」
「ミネコだぁ? 峰不二子なら知ってるが、ミネコなんざ知らねえ。さっさと失せろ。こっちはな、ついさっき刑務所を出たばかりなんだよ」
低い声で凄む小池。だが、ミネコと名乗った女はニコニコしている。怯む様子はない。
小池は苛立ってきた。目の前にいる女には、全く見覚えがない。それ以前に、音もなく背後から近づくとは……非常に不快な振る舞いだ。彼は立ち上がった。
「いい加減にしねえと殺すぞ。俺はな、お前みたいなふざけた女が大嫌いなんだよ」
言うと同時に、小池は手を伸ばした。まずは、襟首を掴んで脅す。もし、それでも言うことを聞かなければ、女であっても殴るつもりだ。そして有り金を奪う……。
だが、ミネコは伸びてきた小池の手を掴む。そして簡単に捻り上げた――
想定外の痛みに、思わず悲鳴を上げる小池。気がつくと、地面に這いつくばらされていた。しかも、ミネコの力は異常に強い。小池も腕力には自信があったが、ミネコは彼など比較にならないくらい強いのだ。
「てめえ何しやがる!」
喚く小池。すると、ミネコの声が聞こえてきた。
「おじさん、あたしは手荒な事はしたくない。それに、もう時間がないんだよ……今日一日、あたしに付き合ってくれるだけでいいんだからさ」
「……」
最初のコメントを投稿しよう!