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だが、煙を吸い込んだ途端にむせた。思わず咳き込む……。
「おじさん、大丈夫?」
心配そうに覗きこんでくるミネコ。その時、小池の中に変化が起きる。
「ミネコ……俺はな、どうしようもないクズだったんだよ。空き巣や車上荒らしなんかをやっててな、さらに覚醒剤までやってた。挙げ句、四年もム所に入ってたんだ。俺にはな、もう何も残ってないんだよ――」
「違うよ。おじさんは、いい人なの」
呟くように言うミネコ……すると、小池の眉がつり上がる。
「俺はいい人じゃねえ! お前なんか知らねえんだよ! お前は誰かと間違えてるんだ!」
「間違えてない。おじさんはこの公園で、あたしに毎日ごはんをくれた」
静かな口調で、言葉を返すミネコ。その落ち着きぶりが、小池をさらに苛立たせる。彼は立ち上がったが――
待てよ。
公園で、ごはん?
それって……。
小池の頭に、かつての記憶が甦る。自分はこの公園で、毎日弁当を食べていたのだ。
醜い野良猫と一緒に。名前は確か……。
「お前……ミケコなのか……」
呆然とした表情で呟く小池。そう、この公園には一匹の三毛猫がいた。片方の前足が欠損しており、三本の足で動いていた。さらに皮膚病のせいか、体の毛がところどころ抜けていたのも覚えている。
可愛げの欠片もない、醜い野良の三毛猫……だが、小池はその三毛猫に毎日餌をあげていた。他の野良猫が来たら追い払い、醜い三毛猫にだけ餌をあげた。彼はその三毛猫に、自分の姿を重ねていたのである。醜い火傷痕のある自分と、皮膚病の上に足が三本しかない三毛猫……小池は親近感を抱いていた。
そして小池は、その三毛猫に名前を付けた。
ミケコ、と……。
「やっと思い出してくれたんだね、おじさん」
そう言って、ミネコ……いや、ミケコは微笑んだ。しかし、小池はただただ唖然とするばかりだ。
「な……どういうことだ……何で……猫が……」
「おじさん、今日は特別な日でしょ。今日だけ、人間の姿でこっちに来させてもらったんだよ」
ミケコの言葉に、小池は唖然としながらも考える。今日はいったい……。
「お盆、か」
ようやく、小池の口から言葉が出た……そう、今日はお盆だったのだ。
死んだはずの者が、こちらに戻って来る日。
「お前、死んでいたのかよ……」
小池の言葉に、ミケコは笑顔で頷いた。
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