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湖面には、山道で旅人から通行料をせびる山賊のような悪人面が映っていた。
寄せてもいないのに眉間の皺は消えてくれず、口の端はひん曲がり不機嫌そうに見えるが俺は戸惑っている。頬にある大きな傷痕から、悪事に長いこと身を浸しているような印象を受ける。
「なんだこいつは……」
いましがた、森のなかで倒れていた俺は自分に関する記憶のいっさいをなくしていた。目についた湖のほとりで自分の姿を確認し当惑している。
ふと気配を感じて背後を振り返る。
若い女がおそるおそるといったていで歩いてきた。
「あ、あの、つかぬことをお伺いしますがッ!」
女は憔悴していた。編みこんでハーフアップにした金髪も、ほつれてその輝きをなくしている。土で汚れ放題の衣服にいやな予感が頭をよぎる。俺の服と似たような汚れかたをしているのだ。
「わたしを誰だかご存じないですかッ!?」
現れた女もまた記憶をなくしていた。
女は俺とともに倒れていたらしい。先に目を覚ました女は俺の顔を見るや危険だと判断していったんはその場を離れたそうだ。失礼だと思うが、この人相ならしかたないと納得した。
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