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いくぶん空が陰ってきた。
心地よい風が一瞬だけ、道沿いに流れている川から吹き上がってくる。
サラサラと、土手の桜の青葉が乾いた音を立てた。
――――――サラサラと、記憶の中の少年の栗色の髪が風にゆれる。
白く細い首をした華奢な少年が、友哉の方を振り返りニコリと笑う。
ズキンと胸に太い針を刺された様な痛みが走り、我に返った友哉は再びブンと頭を振って妄想をかき消した。
「冗談じゃない!」
何かを吐き出すように友哉は叫んだ。
だから嫌だったんだ! だから来たくなかったんだ!
俺が何をしたって言うんだ。どうしてこんな思いをしなきゃいけないんだ。
友哉は眉間に皺を寄せて向きを変え、来た道を戻り始めた。
祖父母には体調が悪くなったと言えばいい。同窓会なんて出なくたってかまわない。
友哉は競歩の選手さながらの勢いで駅に向かった。
「来るんじゃなかった」
もう一度そう呟いたとき、思いがけず川の方から土手を上ってきた人影とぶつかりそうになり、友哉は驚いてボストンバッグをアスファルトの上に放り出した。
「あぶなっ!」
短く叫び、その不注意な人物に注意しようと睨みつけた瞬間、友哉の全身が凍り付いた。
灼熱の太陽が再び照りつけ始めたというのに、体が震えた。
“――――そんなはずはない”
友哉は驚きのあまり口を半開きにしたまま、一歩後ずさった。
友哉にぶつかりかけた青年は目を丸くして驚き、左手で胸を押さえながら「ごめんなさい」と謝ってきた。
サラサラとやわらかそうなストレートの栗色の髪。
友哉と同年代か少し下だと思われるが、体つきはとても細く、あまり日にも焼けていない。
中性的で柔和な顔、白い首筋。
友哉を見つめる瞳は、日本人と思えないほど緑がかったうす茶色だった。
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