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動転しながら友哉が地面に落としたバッグを拾おうと手を伸ばすと、その青年が先に拾い上げて渡してくれた。
無言でバッグを受け取った後、友哉はぶしつけなほどその相手を凝視した。
記憶の中の少年と、驚くほどシンクロしたその青年を。
全身から冷たい汗がにじみ出た。
青年はただ、静かに友哉を見つめ返す。
友哉の様子に気味悪がっているのか、それとも何かを企んでいるのか。
興奮している友哉には想像する余裕もなかった。
友哉の記憶の中の少年がそのまま、この自然に優しく育まれ成長したとしたら、それはまさに今、目の前にいる青年そっくりになっていることだろう。
けれど、そのはずは無かった。そんな夢みたいな事が起こるはずなかった。
彼は死んだのだから。
あの可愛そうな少年、由宇(ゆう)は9年前の夏、死んでしまったのだから。
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