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自分はなぜ昼間見たあの青年に、あれほど驚いてしまったのだろう。
時間が経ち、冷静になるにしたがって自分が滑稽でならなかった。
あの後、あの青年はもう一度友哉に頭を下げると、のんびりした足取りで商店街の方へ消えて行った。
何となく毒気を抜かれたような放心状態になった後、友哉は自分の短気が馬鹿らしくなり、祖父母の待つ家へ引き返した。
よく似た人間などこの世にたくさん居る。しかも友哉が見たのは自分と同じか、もしくは高校生くらいの少年だ。
11歳の、あのままの姿ではない。
なぜ一瞬でも由宇だと思ったのだろう。考えれば考えるほど、自分が滑稽になる。
確かに由宇の死体は見つからなかった。
川の遙か下流の淀みで、由宇がその日履いていたサンダルが見つかっただけで。
消防団や青年団の大人達がどれほど川や滝壺をさらえても、死体は見つからなかった。
けれども、彼の死はまぎれもない事実なのだ。
その事実は、村全体にどうしようもないやり切れなさと不安と、心を浸食して行く恐ろしさだけを残した。
思わなかった訳ではない。もしかしたら由宇は生きているんじゃないだろうかと。
ただ、騒動の後出ていくのが気まずくて、どこかで息を潜めているんじゃないだろうかと。
そう思うことで自分が慰められた。
けれどそれがバカバカしい現実逃避だと言うことも、11歳の友哉には分かっていた。
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