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目の前の人は、少し驚きを見せながらも威厳を保ち、僕の質問に答える。
「君の名前はマイケット・ヴィルズ。優秀な剣士であり、我が王国随一の勇者だ。そしてここは、我が王国ディシィド王国の王宮」
「王宮……」
辺りを改めて見回し、豪奢な飾りがあちらこちらに施されてるのが見えた。
「申し遅れたな。私はこの国の王、フィジェル・ジェラードだ。君は先日、魔族を統べる魔王を討伐せんと戦いに出向いた。そして、もう一歩の所で魔王の狡猾な罠に嵌まってしまい、命を落としたそうだ」
「え、ということは僕、一度死んでるんですか?」
「ああ。しかし、王国一の魔術師の儀式により、君は蘇った。幾分か記憶を失う可能性はあるとは聞いていたが、まさか自身のことすら忘れてしまうとはな……」
王様と名乗る人が、憂いを帯びた表情を浮かべる。
王様なりに、思うところはあるのかもしれない。
「だが、魔術師の話によると、一度体に染み付いた剣術、戦いの術は決して忘れることはないだろう、とのことだ。試しに何か切ってみるかね?」
周りの衛士と見られる人が試し斬り用のかかしを用意するけど、僕は首を横に振り、拒否の意を示した。
そして、腰に差した剣を抜いて、刀身を見る。
刃こぼれ一つ無い、きれいな刀身だ。
僕の仕草に、王様は衛士を下がらせ、満足そうに言う。
「……必要ない、か。いいだろう。その自信が行き着く先を、魔族がいない世界を、我々に見せてくれ。勇者、今一度頼む。魔王を倒し、この世界を救ってくれ!」
「え、いやです」
『………………』
長い沈黙が、王宮を覆った。
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