異次元邂逅

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 異次元邂逅

「初めまして。わたくしが黒衣(くろご)探偵ペルソナです」  突然だった。  突然スイッチを切り替えられたように、眼の前にあらわれた。  真っ黒な、カーテン生地のような大きい布を全身に(まと)った、人間らしき正体不明のモノが。 「もう一度あらためて言いましょう。わたくしが黒衣探偵ペルソナです」  それ(、、)が喋る。  それは、頭からすっぽりと巨大な黒い布を(かぶ)っているように見える。そのせいで顔形や表情どころか、性別や年齢すらまったく判別できない。  しかし、顔があるとおぼしき上部正面あたりに、左右二ヶ所の小さな切りこみの細い横穴があって、かろうじて目元だけは覗いている。最初は自分のいる部屋で自分のびっくりした顔以外、真っ暗で何も目視できなかったのだが。  耳に入ってくるぼそぼそ喋る低めの声の印象と、ぱっと見ごつっとした骨ばったシルエットやだいたいの身長から、おそらく二十代から三十代くらいの、平均的な体格の成人男性っぽくおもわれた。 「あなたの疑問を解いてさしあげましょう」  その全身黒一色の男がぐぐっと顔面を近づけた。冷静にまわりを確認する間もなく、距離をつめられ密着されてしまったような状態になる。  先ほどから口元らしき部分がもぐもぐ動いているところを見ると、この真っ黒な男が喋っているのでとりあえずまちがいないとはおもうが、それにしても、こいつ(、、、)は私に話しかけているのだろうか。 「あなたですよ、あなた。あなたがたの疑問を解いてさしあげましょうと、わたくしは言っているのです」  驚いた。偶然にせよ、まるで私の心のなかを読んだかのような、絶妙なタイミングと的確なレスポンス。  私に話しかけてきていることにはやはり、どうやらまちがいなさそうだ。おたがい自分たち以外には、ほかに人はそばにいないようだし、ちょくせつではないにしろ面と向かって、一対一で顔を合わせていることに変わりはないのだから。なので、 「誰ですか」  おもいきって、こちらからも話しかけてみることにした。  疑問とそもそも言われても、というか、いきなり質問しろと言われても、たったいま疑問に感じることといえば、もっか眼前の真っ黒な男に訊きたいことはといったら、正直いってこれしかない。 「あなたは誰ですか」  ふたたびストレートな質問をぶつけてみる。 「あなたはいったい誰なんですか」 「それが疑問のひとつならば、解答はすでにはっきりしている。わたくしは黒衣探偵ペルソナです」  怪奇! 真っ黒男──からは三度(みたび)おなじ返答が発せられた。
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