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実話──場所がちがう
「それってさあ。じつは、異次元空間の世界とつながってなんちゃらかんちゃら──とかって話じゃあないの?」
それまで私の話を黙って聞いていた妻が、ようやくリアクションらしいリアクションを見せた。
「ほら、魔のトライアングル? ──とか、なんとかっていう海の」
小さな顎をかるく突きだしながら、妻が言う。私は左手を左右に振り、
「ひょっとして、バミューダトライアングルのこと言ってるのか? なら、ぜんぜん話がちがうよ。おなじ大西洋でのことでも、バミューダ海域とはぜんぜん場所がちがう」
「あ、そう。場所がちがう話なの」
「そうだ。とりあえず関係ない」
「ふうーん」
相槌がそっけない。見ると、妻が考え深げに、ぎこちない動作ながら、顎の先に右手人差し指をおいて頷いていた。
「なんか、マレーシアの旅客機を思い出すわね」
「そうなんだ。それでちょっとおもうところあってさ」
マレーシア航空機370便が突如どこかしら不明の地で消息を断つという不可解な事件が発生したかとおもいきや、今度は韓国で杜撰な運営と危機管理のせいで観光船セウォル号が沈没し、その際に避難勧告を遅延させてしまうという人為的で致命的なミスもあって未曾有の大惨事を引き起こしてしまったり──と近年、何かと旅行にまつわる悪いニュースが目につくことが多かった。
「そうよね。だから旅行はクルマでにかぎるのよ」
「それで今日のドライヴは最高だった?」
「はいはい。そんなことより、話のつづきは?」
言葉にやや険はあるものの、じつのところ、妻はすっかり機嫌をなおしているはずだ。
一見、無表情をよそおってはいても、風呂上がりのすっぴん顔に、ひそかに隠しがたい好奇心の色が浮かんでいるのは、よく接近してみれば手に取るようにわかる。いわゆる、目の色が変わるってやつだろう。
「で、それから?」
「で、それから……べつの帆船がそばをとおりかかって、その船のキャプテンや乗組員たちが発見したんだよ。まったく無人の状態の、そのマリー・セレスト号を」
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