第1章 消え去った記憶

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身体の鋭い痛みによって食べるスピードが遅い私は、紫葵くんへの感情に抱いた違和感が頭から離れず、さらにスピードが遅くなった。 食器を回収にきたナースが「あら、まだ食べてたのね!」といってスプーンを私の手から奪い、あーんをして食べさせてくれた。 おかげですぐに食べ終わることができ、「朝、気がつかなくてごめんね…。しばらくは私が食べさせにきてあげるわね!」といいながら食器を片付けに出て行ってしまった。 精密検査とご飯ですでに疲労が溜まっていた私は、ベッドに横になり、またさっきの考え事の続きをしていた。 星苑には感じなかったことが感じる紫葵くん。 違和感でしかない。 …でも、逆に星苑には感じることは紫葵くんには感じない。 悲愴感と安心感。 全く異なる感情。 きっと、幼なじみならば紫葵くんにも安心感は抱くはずなのに、なんで…? 考えても考えても思い出せない。 私の記憶は昨日と今日の2日間だけ。 それよりも前はどうしても思い出せない。 どうして私はこんな怪我を負って、記憶をなくすことになったんだろう。 私の記憶をなくす前の人間関係は? 思い出は? …わからない。 わからないなら聞くまでだ。
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