第1章 消え去った記憶

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「うん…、ありがとう。」 麗がそう言うと、星苑がニカッと笑ってこういった。 「おう!他になにか聞きたいこととかあるか?」   「あ、えっと…。私達、喧嘩とかしたことあるの?」 「そりゃあもう、たくさん!とくに俺と麗はよくしてたな。まぁ、小さいことが原因だから、すぐ仲直りしてたけど。」 「そうなんだ。…紫葵くんは?」 突然話を振られたからか少し驚いたように目を見開いたが、いつものように静かにこう言った。 「…俺らは、あんまりなかったかな。星苑と麗の喧嘩を仲介したり、ふたりの愚痴聞いて宥めたりはよくしてたけど。」 「そうそう、でも結局紫葵は麗の味方なんだよな」 「そんなことない。公平にみて、どっちが悪いかは判断してたぞ?」 「まぁそうだけど、でも麗には甘かったよ」 「そうか…?」 「そうだよ。…でも、高3の最後らへん、お前ら喧嘩してなかったか?いつもよりも口数少なかったし、お互いに避けてたし。」 「……!!」 星苑がそう言うと、明らかに戸惑う様子を見せた紫葵。 「え、そうなの…?」 「ああ。でも俺には何にも言ってこなかったから、なんでそうなってるのかもわかんなかったしな。結局、そのまま卒業した。その夜、麗が救急車に運ばれた」 「…え、卒業式の日の夜…?」 「そう、昼は各自クラスの打ち上げ行ったりしてバラバラだったけど、夜は麗の家で卒業パーティーする予定だったんだ。だから俺達、麗の家で待ってたんだけど…、電話かかってきて、病院に運ばれましたって」 コロコロと表情を変えながら話す星苑。 「そうだったんだ…。でも、どうして…?」   麗のそんな問いに、今度は紫葵が答えた。 「俺らの家の近くに、展望台があるんだ。そこに寄ってから帰ろうとしてたんだろうな、階段のそばで倒れていたところを、たまたまそこに来た人に見つけられて救急搬送されたんだ。」 「展望台…。」 「麗、なにかあるとあそこ行くからな。きっと、あの時なにかあったんだろうな…。考えたいこととかあったのかもしれない」 「……。」 星苑がそう言うと、紫葵は顔を背けて眉をひそめた。 するとその時、医師が病室に入ってきた。 廊下から話し声が聞こえるからのぞいてみたらしく、星苑と紫葵くんは「あまり無茶させないように」と注意されていた。 医師がいなくなった後、紫葵くんが「もうそろそろ帰ろうか」といい、またくるといい残して帰って行った。
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