第1章 消え去った記憶

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今日、また新しいことを知ることができた。 だけどそれはまだ疑問が残るものだった。 私はなんで展望台に行ったんだろう。 紫葵くんとなにがあったんだろう。 そのほかにもたくさん知らないことはあるはずなのに、そのことばかり考えてしまう。 夕方、お母さんがお見舞いに来てくれた。 「麗、今日はいろんなアルバムとか思い出の品を持ってきたよ。ママね、昨日麗が記憶を失ったって言われて本当にショックだったけど、何よりもあなたが生きていてくれて本当にうれしかったの。だから、一緒に頑張ろう!これ見て、少しずつ思い出していこうね。」 「お母さん…。」 「…っ、そうだ。前呼んでたみたいに“ママ”って呼んで?きっと感覚が取り戻せてくるはずだから。」 「…わかった、ママ。」 「うん、その調子!」 「お父さんは…?」 「まだお仕事だから、来るとしたら夜かな?」 「そっか、そうだよね」 「そうよー!お父さんのことも、“パパ”って呼んであげてね。きっと喜ぶから」 「わかった。」 「うんうん!じゃあ、アルバム一緒に見ようか!」 「…うん!」 そういって、赤ちゃんの頃から今までのアルバムを見た。 このときはこうだった、などの思い出話を聞きながらだったため、気がついたら夜7時、夕食の時になっていた。 夕食を持ってきたナースは、お母さんがいらっしゃるならお任せしちゃいますね、といって出て行った。 ご飯を食べた後も続きのアルバムを見て思い出話を最後まで聞き、思い出す感覚はなかったがこうだったんだと知ることができた。 少したった後、お父さんがお見舞にきてくれて、お土産にクマのぬいぐるみを買ってきてくれた。 ママの言うとおり「パパ」と呼ぶと、照れくさそうに笑った。 その後も他愛のない話をして、きっと前もこんな感じだったんだろうなと思った。 消灯の時間になり、ふたりは帰って行った。 もう寝なくてはいけないとわかっていても、先ほどのアルバムをもう一度見てしまっていた。 いつか、このアルバムよりも思い出を取り戻すことができるのだろうか。 そんなことを思って不安になるけど、星苑の「大丈夫」という言葉を思いだして少し安心した。 そして、静かな眠りにゆっくりとはいっていくのであった。
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