第1章 消え去った記憶

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「先生、早く…!!」 そんな声とともに、複数のバタバタとした足音が近づいてくる。 ゆっくり顔を向けると、 「…碓氷 麗(うすい れい)さん、ここがどこだかわかるね?」 と、声をかけてきた。 「…わかりません。」 麗がそういうと、医師は少し微笑み、そしてこう言った。 「ここは、病院だよ」 「病院…。」 麗が、まだ状況を把握出来ずにそうつぶやくと、そばにいた少年が駆け寄ってきた。 「麗、よかった…!目が覚めて」 「…あなたは誰?」 「…え?なに言ってるんだよ。俺だよ!星苑(しおん)だよ」 「星苑…?…ごめんなさい、思い出せないの」 「え…?」 「ちょっと失礼。」 そういって、そばにいる星苑をカーテンの外に出るよう促し、診察を始めた。 「まず、思い出せることを話してくれるかな?」 「…なにも。なにも、覚えてないんです」 「…では、いくつか質問をするね。あなたの名前は?」 「…わかりません」 「誕生日は?」 「…わかりません」 「お母さん、お父さんの名前は?」 苦しそうな顔で首を振る麗。 「そっか…。」 そういった医師は、カーテンを開け、星苑にこう言った。 「どうやら、あの衝撃で記憶を全て失っているらしい。少し触診などもしたが、身体の傷もまだひどい状態だ。」 「そんな…。」 そばにいるナースに、ご両親はまだか?と聞く医師と、まだご到着に時間がかかるようです、というナースの受け答えがまるで遠くで行われているように思われた星苑。 あまりにもショックが大きかったようだ。 顔を真っ青にしてただ立ちすくむ星苑を、麗はじっと見つめていた。
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