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「先生、早く…!!」
そんな声とともに、複数のバタバタとした足音が近づいてくる。
ゆっくり顔を向けると、
「…碓氷 麗(うすい れい)さん、ここがどこだかわかるね?」
と、声をかけてきた。
「…わかりません。」
麗がそういうと、医師は少し微笑み、そしてこう言った。
「ここは、病院だよ」
「病院…。」
麗が、まだ状況を把握出来ずにそうつぶやくと、そばにいた少年が駆け寄ってきた。
「麗、よかった…!目が覚めて」
「…あなたは誰?」
「…え?なに言ってるんだよ。俺だよ!星苑(しおん)だよ」
「星苑…?…ごめんなさい、思い出せないの」
「え…?」
「ちょっと失礼。」
そういって、そばにいる星苑をカーテンの外に出るよう促し、診察を始めた。
「まず、思い出せることを話してくれるかな?」
「…なにも。なにも、覚えてないんです」
「…では、いくつか質問をするね。あなたの名前は?」
「…わかりません」
「誕生日は?」
「…わかりません」
「お母さん、お父さんの名前は?」
苦しそうな顔で首を振る麗。
「そっか…。」
そういった医師は、カーテンを開け、星苑にこう言った。
「どうやら、あの衝撃で記憶を全て失っているらしい。少し触診などもしたが、身体の傷もまだひどい状態だ。」
「そんな…。」
そばにいるナースに、ご両親はまだか?と聞く医師と、まだご到着に時間がかかるようです、というナースの受け答えがまるで遠くで行われているように思われた星苑。
あまりにもショックが大きかったようだ。
顔を真っ青にしてただ立ちすくむ星苑を、麗はじっと見つめていた。
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