29人が本棚に入れています
本棚に追加
そのあとの時間もとても長く感じた。
私のお母さんとお父さんだという人が駆けつけ、医師から説明を受けると、呆然としている様子がみえた。
母は、泣き崩れていた。
どこか懐かしいような雰囲気が漂うふたりの姿を見ても、私はなにも感じなかった。
なにも思い出せない。
身体の痛みに耐えながら、その後もいろんな精密検査を受けた。
身体に負担をかけないよう、あまり一度に多くの検査はしなかったが、これからも数日かけて検査していくらしい。
病室にもどり、しばらく両親と話したあと、ふたりは帰って行った。
やっとひとりになれる。
そう思った矢先、星苑が病室に入ってきた。
「…帰ったんじゃなかったの?」
「うん、一回帰った。ちょっと気持ちの整理つけたくてな」
「なんできたの?」
「会いたかったから」
「…なんで?」
「当たり前だろ?幼なじみが大怪我して大変な時、そばにいてやりたいって思うだろ」
「ひとりにして」
「…そんなこと、思ってないだろ?」
「思ってるよ。今は、そっとしておいてほしい。自分が誰なのかも、星苑が誰なのかも、親が本当に私の親なのかも私にはわからないの…!ただでさえなにもかもわからないのに、たくさんの人がきて、検査だの診察だの見舞いだのに来て、もう頭の中ごちゃごちゃ。お願いだからひとりにして!」
「落ち着けって」
そういって麗の肩に手を置く星苑。
「さわらないで!」
麗が声を荒げ、星苑の手を払おうとすると、その手を優しく掴み、こう言った。「いいから落ち着け!」
そして静かに、だけど力強く抱き寄せる星苑。
始めは抵抗していた麗も、その温もりと背中をポンポンとする優しい手に、落ち着きを取り戻していった。
「…俺は、本当のお前を知っている。そんな強がっても、心の奥では助けてほしいって思ってることだってわかってる。だから俺は、お前を離したりしない。…確かにショックは受けた。だけど、一番辛いのは麗だよな。なくなった記憶も、俺がちゃんと取り戻してやる。だから、安心しろ」
最初のコメントを投稿しよう!