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次第に僕は……わたしは、『美月』として、眼の前の不器用な人に惹かれていることを自覚しはじめていた。
「わたしには、もう、昔の記憶はないけれど……どうしてか、ずっとこんなやりとりをしていたような、気がするんだ」
「……アンタ、わたしのわがままを、笑ってよく聞いていたわ。嫌がりもせず」
「そうなんだ。なら、また教えてほしいな」
三ヶ月前のわたしも、僕も、もういない。
だから、それを知っている美月ちゃん……陽介君の姿をした彼と、一緒に、取り戻していけたらなと感じている。
「新しい、わたしとの想い出として」
――もう、二人とも、新しい自分になってしまっているのだから。
「記憶が戻ったら、アンタ、あたしのことを許せなくなるかもしれない」
「みづ……ううん。陽介君は、わたしのこと、嫌い?」
「な、と、突然なによ」
「どうせなら、やりとげようよ。わたしは、もう、陽介じゃなくなっちゃった。なら……『美月』として、生きたいと想う」
「陽介……」
呟く彼に、違うよ、と小さくささやく。
「だから、美月ちゃんが『陽介』として生きるって決めたんなら……抱えこまずに、生きてほしいなって。わたしも、その手伝いが出来たらなって、想うの」
「自分から聞いておいて、勝手じゃないの?」
「そうだね。でも、好きな人の秘密って、気になるものでしょう」
「好きな人って……ア、アンタ、おかしいじゃないの!?」
「おかしいのかも。だって、あんまりにもいろいろなことが起きすぎちゃってるから」
薄く微笑むわたしと対照的に、陽介君の身体は頭を右手で抱え、うめくような声で言った。
「……なんでアタシは、もう、アタシのことがわからないのかしら」
「わたしも、もう、あなたのことはわからないから。だから、辛くなったら、言ってね」
ぎゅっと、つかんだ手に力を入れながら、大切な想いを込めて言う。
「自分だけの身体じゃ、ないんだから」
「……うん、でも、その発言は誤解がある。やめろ」
「えっ?」
顔を赤らめる陽介君の顔に、わたしは疑問符を浮かべた。
まだまだ女の子のふるまいは、わたしに成り始めた僕には、難しいのかもしれない。
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