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話に聞く美月ちゃんのイメージを想い返して、当てはめてみる。確かに、そうした押しつけを嫌いそうなのは理解できた。
「逃避なのかもしれない。でも、わかった。陽介の身体で生きる内に……自分になじむのが、こっちなんだって」
ぎゅっと、陽介の身体に触れる美月ちゃん。まるで、身体に自分をなじませるかのような仕草。
「だから、わたしは隠していたの。あなたを、記憶喪失のまま、利用して」
「……」
そこまで話して、二人とも、無言になってしまう。
「こんな勝手な話、許せる?」
少しして、自嘲するような笑みを浮かべながら、陽介君の姿をした美月ちゃんは僕に答えを求めた。
勝手な話、なんだろう。だから僕も、感じたままに、彼女の心へ答えることにした。
「ごめんね。美月ちゃん」
その返しは予想外だったのか、陽介君としての顔が、驚きで崩れたのが見てとれた。
「ど、どうして謝るの。ここは、怒るところじゃないの!?」
「僕が、記憶をなくして、君の身体に甘えてしまったから……独りで、ずっと、抱えちゃったのかなって」
「……バカ! わたしは、アンタの身体を、いいように使ってるのよ!?」
「それは僕だって同じことだよ。美月ちゃんの身体を使って、他人になってしまっているんだから」
「それは……アンタは、他人なんだから、仕方ないじゃない」
「でも、それを知らずにしてしまっていたことは、知っている美月ちゃんにとっては……辛いことだったんじゃないの?」
「だから、言ったでしょう。わたしは、アンタとの身体の入れ替わりと、記憶喪失を、チャンスと想った。あなたの身体を、人生を、奪ったのよ」
「奪われていないよ。だって、記憶喪失の僕に、『美月』って人生を、残してくれたじゃない」
「なによ、それ。意味がわからない」
「そうでなきゃ……あんなに親身に、僕が『美月』として生きる、手助けをしてくれるはずがない。自分のことだって、大変だったはずなのに」
呆気にとられる美月ちゃんへ、彼女の身体で近寄り、ぎゅっと手を握る。
たくましく硬い、かつての自分らしい身体へ、僕は言う。
「男の子になりたかったんなら、それでもいい。でも、記憶喪失の僕に対して、一緒に学校へ行ってくれたり、想い出の場所を教えてくれたり、好きだった場所を教えてくれたり……」
「そ、それは……義務、だと想って」
「……惚れちゃいそう」
「なにを、言ってるのよ……」
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