第1章

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 話に聞く美月ちゃんのイメージを想い返して、当てはめてみる。確かに、そうした押しつけを嫌いそうなのは理解できた。 「逃避なのかもしれない。でも、わかった。陽介の身体で生きる内に……自分になじむのが、こっちなんだって」  ぎゅっと、陽介の身体に触れる美月ちゃん。まるで、身体に自分をなじませるかのような仕草。 「だから、わたしは隠していたの。あなたを、記憶喪失のまま、利用して」 「……」  そこまで話して、二人とも、無言になってしまう。 「こんな勝手な話、許せる?」  少しして、自嘲するような笑みを浮かべながら、陽介君の姿をした美月ちゃんは僕に答えを求めた。  勝手な話、なんだろう。だから僕も、感じたままに、彼女の心へ答えることにした。 「ごめんね。美月ちゃん」  その返しは予想外だったのか、陽介君としての顔が、驚きで崩れたのが見てとれた。 「ど、どうして謝るの。ここは、怒るところじゃないの!?」 「僕が、記憶をなくして、君の身体に甘えてしまったから……独りで、ずっと、抱えちゃったのかなって」 「……バカ! わたしは、アンタの身体を、いいように使ってるのよ!?」 「それは僕だって同じことだよ。美月ちゃんの身体を使って、他人になってしまっているんだから」 「それは……アンタは、他人なんだから、仕方ないじゃない」 「でも、それを知らずにしてしまっていたことは、知っている美月ちゃんにとっては……辛いことだったんじゃないの?」 「だから、言ったでしょう。わたしは、アンタとの身体の入れ替わりと、記憶喪失を、チャンスと想った。あなたの身体を、人生を、奪ったのよ」 「奪われていないよ。だって、記憶喪失の僕に、『美月』って人生を、残してくれたじゃない」 「なによ、それ。意味がわからない」 「そうでなきゃ……あんなに親身に、僕が『美月』として生きる、手助けをしてくれるはずがない。自分のことだって、大変だったはずなのに」  呆気にとられる美月ちゃんへ、彼女の身体で近寄り、ぎゅっと手を握る。  たくましく硬い、かつての自分らしい身体へ、僕は言う。 「男の子になりたかったんなら、それでもいい。でも、記憶喪失の僕に対して、一緒に学校へ行ってくれたり、想い出の場所を教えてくれたり、好きだった場所を教えてくれたり……」 「そ、それは……義務、だと想って」 「……惚れちゃいそう」 「なにを、言ってるのよ……」
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