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――こんな景色、記憶がなくなる前にも、一緒に見たことがあるんだろうか。
河原の道を、一緒に歩く。
先を行く彼の背中は、たくましくて厚い。男の子らしい背中だなと、想う。
一緒に歩くわたしは、制服に身を包み、最近長く伸ばしたらしい髪もあって、女の子らしく見えているんだろう。
「……どうした?」
足取りを止めていたわたしに、彼が声をかけてくる。男らしい、低い声。変声期をすぎて、男らしい硬さも加わった、強い響き。
わたしは、ふりかえった彼に向かって、言った。
「答えて。あなたは、なにを隠しているの」
女の子らしい、高くて鈴が鳴るような声。自分のものらしいその声に、眼の前の男の子は少しだけ歩を詰めて、答える。
「隠しているって、なんのことだ」
浮かんだ顔は、険しいもの。眼を細め、口を引き締めた顔は、怒っているようにも見える。整えられた茶色の髪と、強い意志を感じさせる瞳が、よりそう見せているのもある。
「陽介君、教えてほしいの。あなたが、わたしに……わたしだけに、隠していることを」
望月 陽介(もちづき ようすけ)。わたしと幼い頃からずっと一緒だった、幼なじみ。そう、聞いている男の子。
――目覚めてから、三ヶ月しかたっていない、わたしが知る数少ない知識の一つ。
「隠している……?」
「怒ってる、の」
髪をいじる仕草をしながら、顔をしかめる彼。
「くだらねぇことを聞くからだよ。隠し事なんて、俺はしない」
「……本当に?」
問いかけると、彼はますます不機嫌そうになる。
怒らせたかな、と不安で怯える。
けれど、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
――みなが言う、かつてのわたし。そのわたしは、むしろ、彼を怒鳴りつける立場だったんだから。
「どうして、髪を染めたの?」
「なんだ、急に」
「だって、わたし、聞いたよ。突然、イメージが変わったって」
わたしが聞く彼は、教室の男子の中でも大人しく、運動も苦手な方だった。むしろ、本や人との会話が好きで、聞き手になることの方が多かった。
だから、眼の前の彼しか知らないわたしは、みんなの話と彼のイメージが一致しない。
「変わるくらい、普通だろ」
確かに、そうかもしれない。目覚めてから出会った、三ヶ月しか知らない友人達もそうだ。
一日だけで、驚くほど変わってしまう人もいる。
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