第1章

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「お前は、記憶がないんだから……余計、そう想うだけだ」  ――わたしには、三ヶ月以上前の記憶がない。  だから、陽介君の言うとおりなのかも、と想う部分もあった。 「うん、そうだね。わたしは、記憶がない」  始めての記憶は、白い天井と、涙を抱えた人達の嬉しそうな表情。  そのなかには、陽介君の顔もあった。  わたしと一緒に事故に巻き込まれ、先に目覚めていた彼。 「……悪い。想い出させちまったな」  ――三ヶ月前。  わたし、陽鏡 美月(ひかがみ みつき)と、眼の前の男の子、望月 陽介(もちづき ようすけ)は、とある事故に巻き込まれ、意識不明になってしまった……らしい。  らしい、というのは、目覚めた時になにも覚えていなかったからだ。  身体の怪我はあんまりひどくなくて、意識さえ戻れば……ということで、みんな安心していたみたいなんだけれど。  だから、ちゃんと意識がはっきりした頃に、集まってくれていた人達の顔が戸惑った理由も、今ならわかる。  『ここは、どこ? 僕は……誰?』。  覚えていないけれど、わたしが呟いたのは、そんな一言だったみたい。  なにも想い出せず、呆然とするわたしに、みんなが向ける眼も不安なもので。  わたしは、どうすればいいんだろう……そう、うつむきかけた時。 「おはよう。目覚めてくれて、嬉しい」  それが、覚えている陽介君との、始めての出会い。唇を笑いの形にして、でも、少し悲しそうな顔をする彼。 「あ、ありがとう」  わたしは、かすかにそう言うのが精一杯。  ただ、陽介君がそう話しかけてくれたことで、雰囲気が変わったのか。  それからみんながお医者さんを呼んでくれたり、話しかけてくれたりするようになった。  ――陽介君はその後ろで、記憶を失ったわたしとみんなとのやりとりを、寂しそうな顔で見つめていた。 「あの時、すごく心配してくれたよね。感謝してるの」 「……幼なじみを心配するのは、当然のことだろう」  突き放すような声音で言われたけれど、わたしは頭をふる。 「ううん。陽介君は、すごく親切にしてくれたよ。自分も、巻き込まれたのに」  目覚めたわたしは、お医者さんの見立てでも、記憶に障害があると認められた。  身体や精神状態には、なにも問題はないけれど……記憶だけが、ぽっかりと抜け落ちてしまっているようだった。
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