第1章

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「ずっと違和感があった。目覚めて、記憶がなくて、みんなに優しくされて……」  目覚めてから、失った記憶を埋める訳じゃないけれど、自分が良いと想えるものに積極的に関わるようにしてみた。  ファッションや読書、化粧や恋愛話、テレビドラマやアイドルなど……その結果、昔のわたしの友人から、言われたのだ。 「自然にしていたら……みんなに言われたの。『美月、変わったね』って」  三ヶ月以上前のわたしは、そうした趣味とは、むしろ逆方向。  スポーツ大好き、勉強嫌い、スカートなんかは旗にしてぶん投げて、チャラチャラしたアイドルなんか見向きもしない。  あまりにも違いすぎる、って言う僕に、陽介君は低い声で答える。 「もしかすると、本当は好きだったんだろ。それが、この機会で一気に出てきたのか」 「頭をぶつけて、性格が変わるって、あるみたい。調べたら、そういうこともあるって」 「なら、それなんだろうさ。……おい、俺が隠しているって話と、この話はなんの関係があるんだ」  陽介君は硬い顔を崩さないまま、わたしに問いかける。 「男らしく、でも優しくて、気になる相手には干渉する。それが、本当のわたし。でも、今は……僕は、違うんだ」  胸の中から、言葉にならない感情が溢れてくる。なんだろう。これは。 「もう、昔の話だろ。記憶がないんだ、変わっちまっても仕方ないだろう」  陽介君の言うことも、もっともだった。  けれどこれは、違う、と感じている。  理由はないけれど……直感。それが、僕の直感なのか、わたしの直感なのか、それもわからないけれど。 「昔のわたしは……今の、陽介君みたい」 「な、ん……」 「むしろ、僕じゃなくて、陽介君こそが……昔のわたしと、一緒じゃないの?」  自分で言いながら。  まるで胸の奥の鍵穴に、がちりと鍵が回ったようで。 「……ふざけるなよ」  違和感が言葉になり、不思議と心が満たされると同時。  眼の前の、かつてのわたしと想える彼から、貫くような声が降ってきた。 「一緒……一緒って、なんだよ! 俺が、女々しいって言うのか!?」  そして、開けられた言葉は、陽介君の心の秘密も、暴いてしまったのかもしれない。  怒鳴るような声に、背中がふるえてしまう。眉をつり上げ、眼をナイフのように鋭くさせた彼の顔に、細い身体が怯えている。
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