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自分の手を見ながら、ふるえる声で告白する陽介君。
その状況を想像し、僕は息をのんだ。誰にも相談できず、でも、信じられる自分もわからない。
「でも、想い出せるの。教室に行って、友達を見ると、その身体の時に話し合った記憶が、ずっと……」
寂しげな呟き。
友達と話す、僕の身体を、彼女はそんな眼で見ていた。それが、違和感の理由だったんだ。
「話を戻すわ。記憶を失っているあなたを見て、わたしは、途方に暮れた」
「そう、なんだね。僕は、なにもわからなかった」
胸を締め付けられるような心地になり、それしか言うことが出来なかった。
「だからわたしは、割り切ることにしたの。むしろ、これ幸いだったわ。幼なじみのアンタなら、ちょっと誤魔化せば、やっていけるんじゃないかって」
「……陽介君のイメージを変えたのも、そのため?」
「あなたの記憶障害と一緒ね。記憶があやふやなのと、性格が変わったのを、一緒にしたのよ。そうすれば、違和感がすごくて、逆に疑われることが減るだろうから」
話に聞く美月ちゃんなら、確かにそれくらいやってのけそうだった。男らしい、と呼ばれるようになったのも、元々の性格に合わせてしまったのもあるんだろう。
「美月ちゃんは……どうして、それを隠していたの」
「あなたが美月として生きやすいように……よ」
「それは……辛いこと、じゃない」
僕がしぼりだすように言った言葉に、美月ちゃんは、ぽつりと小さく言葉を漏らした。
「というのが、表向きの話」
「表向き……?」
わざわざそう言ういうのは、なぜだろう。
「勝手な話よ。あなたに、言うのは」
「かまわない。この、胸の違和感が消えるなら」
ここまでくれば、驚くことはないだろう。漫画のような事態がここまで起こっているのなら……と考えていたら、甘かった。
「わたしは、男になりたかったの」
「男に?」
美月ちゃんの告白は、また違う方向で予想を裏切るものだった。
「記憶を失って、どんどん女の子らしくなっていく自分を見て……陽介の心を見て、わたしは、自分の願いを叶えることにした」
「自分の、願い?」
「窮屈だったの。ずっと、女の身体が。同世代の男子に、体力で抜かれ、親や先生からは落ち着きなさいと言われ、友人達の興味とズレていく、そんな疎外感」
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