第一章:死、あるいは二度目の生

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俺の首が飛んでいた。  比喩ではない。首の付け根からすっぱりと切り落とされた俺の首は、くるくると見事なトリプルアクセルを決め、小さな放物線を描いて天井へと飛んでいく。  そのまま放っておけば、重力に従って落下し、地面と熱烈なキスをすることになるだろう。  別に痛いわけでは無いが、顔面が土で汚れるのも嫌なので、4回転目にさしかかったあたりで頭をキャッチする。手の中で向きを調整し、顔を正面に向けると、そのまま切断面同士を押し付けた。  「クロ、俺が何か悪いことを言ったのなら謝るからさ、ちょっとコミュニケーション手段を穏やかにしれくれないか。こうポンポン首を切り落とされたり氷漬けにされたりしてたら、そのうちポックリ逝っちまうかもしれないぞ?」 クロと呼ばれた相手、真っ黒なフード付きのローブを頭から被り 目元だけしか見せない不審な人物は、一拍、何かを考えたかのように沈黙し  「……ふん」  拗ねたような鼻息をひとつ残し、そのまま去っていった。  ここは暗い洞窟の中だ。カンテラの光はすぐに届かなくなり、去っていった人物をすぐさま闇に溶かし込んでしまう。 「どうしたもんかなぁ。なんとかご機嫌窺いしたほうがいいんだろうけど」  ちょいと首を調整し、うまい具合に接合させる。適当にくっつけると、気道がずれてひゅうひゅうと音を立ててしまうのだ。まあ、本当は呼吸すら必要ない。生きている間の習慣を、無意識に続けてしまっているだけなのだが。 「あんな気難しい相手の扱い方なんて、俺知らねえよ……」  ため息をひとつ吐き出す。出会ってからの一週間というもの、彼女は、こちらと仲良くしようとか、打ち解けようといった姿勢を全く見せない。  居候の身分ゆえに、彼女の不興を買うのはよろしくないので、あまり口出はしない事にしているが、そもそも自分を生き返らせたのはお前なのだから、その責任くらいは取れよと言いたくなってくる。  まあ、初めて会った時も色々とヒドかったので、この扱いも彼女からしてみれば普通なのかなと考えながら、俺は一週間前の出来事を思い出していた。  死、あるいは二度目の生が始まった日の事を。
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