第一章:死、あるいは二度目の生

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 遭難した。  そうなんですか、とクソつまらないツッコミを入れてくれる誰かがいれば、まだ気も紛れるし、くっ付いてお互いを温めあう事も出来たのだろうが、生憎とこの雪原でガタガタと震えているのは、悲しい事に俺一人だけだった。  雪景色の撮影なんかせず、すぐに山を下りておくべきだった。好奇心は猫を殺すと言うが、どうやら俺は猫と同格らしい。  どうしてこうなったのか。決まっている、俺の不注意と慢心のせいだ。こうなった経緯を振り返りながら、俺は自分の体をこすり続けた。  ―――――  愛用の一眼レフを片手に、ネットで調べた面白い施設や美しい風景、特に廃墟に赴き、それを写真に収めるのが、俺こと久城秋人(くじょうあきひと)のささやかな趣味だった。現在二十四歳。施設の解体業者に就職したのも、仕事前に建物の写真を撮る機会があるからだ。  ときおりジムに通っており、筋肉にはそこそこ自信がある細マッチョだ。顔はそれほどよろしくなく、控えめに言ってもモテる顔ではないが、そこそこ日々を楽しく過ごしている。  三月下旬のその日も、山奥にあるという潰れたホテルの廃墟を目指し森の中を延々とバイクで駆けていたのだった。空は明るく、申し訳程度に雲が浮いている。  春のにおいのするようになった風をヘルメットの隙間から吸い込み、エンジンの心地よい振動を感じながら、寂れた田舎道を行く。凹凸のついたオフロード用のタイヤがときおり混ざる砂利を蹴飛ばし、小枝を踏み折り、軽快に進んでいった。 「さて、そろそろ着いてもいいんじゃないかな?」  やや傾斜のついたアスファルトの道路を、エンジン音を上げながら進む。  地図を見る限り目的地は近いようだったが、ろくに目印になるようなものも存在しないため、どうにも位置があいまいだった。避暑地と言うか、世捨て人風と言うか。まず普通の人は来ないような山奥のホテルのため、近くに建物も建っていない。  まあ、そんな使い勝手の悪いホテルだから潰れたのかもしれないが。  しばしの間、無言の疾走が続く。この移動する間の時間も楽しいもので、ときおり見つけた風景、一輪だけ咲いた名も知らぬ花や、神錆びた雰囲気を感じさせる古びた木、誰からも忘れられたであろう小さな社などを見つけては、写真に収めてゆく。この何気ない時間が、俺は好きだった。
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