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「っと、あれかな?」
木々の間から何か建物が見えたような気がして、速度を落とす。すぐに古びた看板が見え、目的地の名と、色の落ちた矢印が見て取れた。
ハンドルをそちらに向け指示された方向へと進むと、申し訳程度に作られた駐車場に着く。広さはそれほどでもない。五十台も停まれば一杯だろうか。半ば自然に飲み込まれかけており、所々アスファルトが砕け、雑草がその生命力を誇示するためのステージになっていた。
その隣には、今回の目的地である、廃墟と化したホテルが建っている。木々の間から突き出すように建設されたそのホテルは、所どころツタに巻かれ、雨風によって風化していたが、未だに軍艦の様な武骨な雰囲気を保っていた。
駐車場に設置してある案内図を見てみると、どうやら少し離れた場所に展望台があるようだ。どうせなら明るいうちに撮影してみようと、バイクを走らせる。ちょっとした崖に柵が付いているだけの微妙な出来だったが、山間部にあるというだけで、素晴らしい景色を提供してくれるのだから文句は言うまい。
予想通り、冬籠りを終えた草木たちが新しい葉を茂らせ始め、暖かな春を迎えるための準備をする、ありふれてはいるが、生命の息吹を感じられる美しい光景を見せてくれた。何枚か写真に収め、その出来栄えに満足すると、ホテルへと取って返した。
―――――
駐車場にバイクを止めようとすると、ぽつりと、アスファルトに黒いしみが出来る。空を見てみると、いつの間にか遠方から灰色の雲 ――恐らく雨雲だろう―― が、風に流されて、こちらにやってくる所だった。
「困ったな、今日は晴れるって予報だったのに。まあ、山の天気は荒れやすいしな。しょうがないか」
エンジンをかけ直し、ホテルの入り口付近へとバイクを進める。出来れば屋根のあるところが無いかなと探していると、ふと、従業員のための駐車スペースだろうか。シャッターが開きっぱなしになっている、ガレージの様な場所を見つける。雨風を避けるためにも丁度よさそうだったので、ホコリっぽいそこにバイクを乗り付け、エンジンを切った。
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