第一章:死、あるいは二度目の生

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 とたんに、あたりはしんと静まり返る。ときおり風が吹き、木の葉をざわざわと揺らした。そうそう、この寂れた雰囲気が良いんだよな、と口元をほころばせながら、リュックからデジタル一眼レフを取り出す。  さて、お楽しみの時間と行きますか。管理人に許可は取ってあるし、じっくりと撮影させてもらおう。期待に胸を膨らませながら、埃よけのマスクをはめ、ブーツの紐をしめ直した。  ―――――  撮影は、とても満足のできるものだった。  かつてこの場所で働いていたであろう、人々の営みや、それが終わった後の物悲しい空気。当時は精を凝らして作られたであろう建物が、時代に取り残されて朽ちてゆく様は、何とも言えない寂寥感を感じさせてくれたし  誰もいないホテルの中を撮影して回るのは、まるで太古の遺跡の中を冒険しているかのような心地よい緊張感を感じさせ、まだ自分の中に残っている、子供っぽい冒険心を満足させてくれたのだった。  施設の管理人に、無事に撮影が終わったと電話を入れ、正門から出る。無事に帰るまでが遠足だと何気なく考えていたのだが…… 「まずいな、雨、強くなってないかコレ」  そう、雨脚は強まり、勢いよく地面を濡らしていた。雨具は持ってきているとはいえ、雨の中をバイクで行くのは危険だった。  視界は悪くなるし、運転に集中できない。なにより、足回りに不安が出るのだ。雨の日の路面はよく滑るし、白線やマンホールの上は特に危ない。万が一、カーブでスリップしたら、対向車線を飛び出して、森の中に突っ込む事になるだろう。そんなありきたりな死に方、道路脇にひっそりと花を手向けられるなんてつまらない最期を迎えるのは、まっぴらごめんだった。  予想以上に撮影に熱が入ってしまい、予定していた時間よりもかなり遅くなってしまっている。既に日が落ち始めており、雨雲のせいで普段よりも輪をかけて暗い。帰路の途中で真っ暗になってしまうのは目に見えていた。
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