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それなのに、他のすべての年老いた魔法使いたちから、何故か一目置かれている。そんな、変わり者でございます。
さて、このクラハ・ランが、あろうことか不機嫌な茉莉花姫をその腕にさらって消えましたのはある祭りの夜でございました。
この日、茉莉花姫はたいそう退屈をしておいで。祭りの余興に、魔法使いたちをひとところに集めて、何か自分を驚かすようなものを見せてみよとお命じでございました。
ですが、星博士が晴天に雪を降らせようと、魔法使いたちが古えの竜を思いのままに操ってご覧にいれても、まったくお喜びにはなりません。
退屈そうに欠伸をしているか、いっそ不快げに足を踏み鳴らして下がらせるか。姫様の不機嫌を恐れて、もう御前に出るものもございません。祭りの余興でございますのに、すっかり場も盛り下がりまして、民も皆ガッカリとした顔をしております。
……そのような中でございました。
宮中の塀の上からこの一部始終を眺めておりましたクラハ・ランが、ひらりとその塀から舞い降りて、一枚の絨毯を広げましたのは。
何が起こるのかと皆が目を剥いて見守る前で、クラハ・ランが軽やかにその踵で絨毯を叩きますと、見る間に絨毯は風の音を立ててランを乗せて舞い上がります。
皆、息を飲んで見上げる前で、不遜にもランは、城のバルコニーから王と数人の姫様方とご一緒に、広場を見下ろしておられた茉莉花姫へ手を伸ばしました。
この時、ランが何か茉莉花姫に言った、という者もおりますが。誰もその言葉を聞いたものはおりません。
もしやもすると、呪文のようなものであったのかもしれません。
ただ、茉莉花姫も、またこの時、ランを前に、その常に不機嫌に寄せられた眉をこの時ばかりは大きく開いて、その絨毯の上に自ら飛び乗られたのでございます。絨毯に乗って、2人はいずくとも知れぬ夜の彼方に飛び去りました。
まったくもって、それは瞬く間の出来事でございました。
**** ☆ ****
クラハ・ランは≪呪われ者≫とも呼ばれておりました。
そのターバンは呪いのターバンで、呪いを解かずにほどけば顔の皮膚がべりべりとターバンとともに剥げるといわれておりましたので、その素顔を見た者もいなければ、どこから来たかも知る者が居ないのでした。
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