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さっきドラッグストアで買った50枚入りのマスクの一枚をすでに使用した酒井清春は、携帯をいじる、鼻をかむ、携帯をいじる鼻を…を繰り返しながらいつもよりも15分早く着く急行にありついた。
所々穴の開いた座席で一番空いてる席の真ん中に座ると電車が動き出す。
次の駅に着くまでに次の日のプレゼンのことを考えよう、その次の駅に着くまでに、嫁さんにLINEを送り、ある程度の自分が家に着く時間を伝え、家に着いたらすぐ飯…みたいに上手くいけばいいかなぁと思いながらカバンの小さなポケットから手帳を取り出す。
酒井は目を瞑り上を向きながら次の日のプレゼンを思い描きリハーサルする。
「…このような図になりますので我々が取るべき行動は全てその客層のニーズによって決まるのです!ですから…。」
などと頭で唱えるうちに次の駅に着くアナウンスが始まる。
やっぱり早いなと急行に乗れたことを再度喜ぶが、乗客が多く、空いていた車内はあっという間に埋まる。
空気の流れが変わったのかマスクの内側がムズムズする。
ハックション!
大きなくしゃみをしてすぐ、
「あっすみませんっ!」
と右横に座った黒い皮ジャンを着た男に言う。
すると、革ジャンの男の血走った眼は、こちらを凝視していた。
うなづくように前を向きながら、すみませんともう一度いいつつ頭では、いやいや。辛いんだから許してね、と酒井は思う。
携帯を見直す。
右横から気配を感じる。
二度見するようにもう一度その革ジャンの男を見るとまだ見ている。
「…すみません。」
しつこいなぁと思いながらももう一度謝る。
すると革ジャンの男。
携帯の画面に何かを打ち込みこちらに見せてきた。
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