『191センチの恋』 宮藤シンイチ

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 俺は瓶底のような厚い眼鏡越しに、目を見開いた。 「お……俺?」  信じられない出来事につい訊き返すと、小野は不思議そうに目を丸くしながら「うん」と頷いた。  ほ、本当に、小野は俺に話しかけてくれたんだ――。  初めての個人的な質問にきらめくような気持ちを感じながら、俺はさっきの質問を慌てて巡らせた。えっと、これはなんの本かって聞かれたんだっけ。 「こ、これは、図書館の……本、です」 「図書館って、図書館が舞台になってる本ってこと?」  俺は首を一生懸命に振って否定した。そして本の背表紙を小野に見せた。そこには『市民図書館』というシールが貼られている。  それを見て、小野は一度面食らったような顔をした。それから小さく吹き出した。きちんと質問に答えたつもりだったのに、俺はなにか間違えてしまったのだろうか。 「図書館の本ってそういうことか。でも、オレが訊いたのは内容のことだよ。どんな本読んでるのかなって」 「あっ、内容……」  どうやら俺は、言葉の解釈を大きく間違ってしまったらしい。さっきまでのへんてこな自分の行動を思い返して、?が熱くなった。
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