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『191センチの恋』 宮藤シンイチ
『191センチの恋』 宮藤シンイチ
「はい、一九○センチね」
そう事務的に言ったのは、まだ名前も知らない保険医の先生だった。
俺は俯いた。長い前髪が分厚い眼鏡をはらりと覆った。
また身長が伸びてしまった。去年はまだ、一八○台だったのに――。
この身長が伸び続ける限り、俺に友達ができることはきっとない。異様に高いこの身長は気味悪がられて、誰も近寄ってこようとしないからだ。その違和感に気づいたのは、早くも小学校一年生のときだった。
そのときから俺は、誰にも声をかけられたことがない。
1
「それ、なんの本?」
その問いかけるような声に、つい活字から目を離して顔を上げてしまった。
放課後に教室で読書をしているのは俺くらいしかいない。他の人たちは、友達と一緒に部活動へ行く準備や帰り支度をしているからだ。
じゃあ、今のは……俺、に――?
まさかと思いながらも、俺は声のしたすぐ横に顔を向けた。
隣の席には小野が座っていた。小野はさっき行われたホームルームで、強制的に一番後ろの席に移動させられてきたクラスメートだ。
もちろん素行が悪いだとか、そんな理由ではない。小野はクラスでも一番の人気者で、先生たちからの信頼も厚い人だ。移動させられたのは、小野は身長が高いので後ろのほうがいいんじゃないか、と先生から提案があったからだ。
そんな小野が、首をかしげながら尋ねるように俺のことを見ていた。
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