古い喫茶店

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「それで、母さんは?」 「お母さんは、なんだか魂が抜けたみたいになっちゃって、お兄ちゃん、お願い、早く帰ってきて」 「ああ、今日中に帰る」  私は彼女にさらに二言三言の言葉を掛け電話を切ると、一緒に外回りをしていた後輩に事情を説明し、会社を早退した。  本来なら取るものとりあえずに実家に帰るべきなのだが、何故か荷物を取りにいったん家に戻る途中、目に入った喫茶店の扉を押していた。もしかすると、少しでも気を落ち着けようと言う思いが働いたのかもしれない。  店内に視線を巡らせる。店の雰囲気はかなりオーソドックスで、喫茶店と聞いて多くの人がイメージするそのものという作りだった。だからだろうか? 店に入って最初に浮かんだ感情は、既視感だった。
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