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私は店オリジナルのブレンドコーヒーを注文し、マスターが戻っていくやいなやたばこに火を付ける。私も、たばこの魔力からは逃れられない定めなのだろう。
たばこのおかげか私の頭は多少クリアになる。そして、それまで気が付かなかった窓際の席にいる二人の客に視線が吸い寄せられた。
こんなシックな店には不釣り合いな少年と、その少年の父親らしき男性、その男性は自らが吐いた煙が少年に掛からないようにか、体を斜に構えている。
店内に流れる静かなビー・ジー・エムの中、何故か二人の会話が耳に届く。
「お母さん、元気か?」
「うん」
少年は気恥ずかしいのか、窓の外に視線を向けたままで応える。
「そうか」
父親らしい男性はそれだけを言うと、煙を吐き出した。
マスターが私の注文したコーヒーを運んでくる。コーヒーの薫りとその二人の様子が私の父との遠い記憶を呼び覚ます。
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