コーヒーに砂糖二杯

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 あれは僕がまだ小学校低学年の頃だった。父に内緒で単身赴任中の父に会いに、一人で父の会社の近くまで遠出をしたことがある。あれは春休み、その短い休みを利用して、僕は秘密の計画を立てたのだ。  父の会社の近くにあった公衆電話から、父の職場に電話を掛ける。受話器から聞こえてきた父の驚く声に僕は自分が計画した思惑が成功したことが確認でき気分が高揚した。  父は会社を抜け出し、僕に会いに来てくれた。今にして思えば、突然仕事を抜けるというのはかなり大変だったことだろう。でも、その時の僕にはそんな考えは浮かばなかった。ただ、もう半年以上顔も見ていない父に会いたい、そして、驚かせたい、というただそれだけだった。  父は僕を近所の喫茶店に連れていってくれた。その時が僕の初めての喫茶店体験だった。父は馴れた様子で扉をくぐったが、僕はその新しい世界に何処かわくわくしていた。
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