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「よかったらどうぞ」
差し出された赤いチェック柄のブランケット。
受け取るのに躊躇していると、彼女は軽いため息と共に側まで来て俺の胸元当たりにブランケットを押し付けた。
俺の鼻上位の背丈でたれ目ながらぱっちりな目。薄暗いこの時間帯でも瞳が煌めきを有している。
「この時間から更に冷え込みますよ?」
雰囲気からして、同じ歳位な感じがするけど、警戒心ゼロだな、この人。
どうすんだよ、俺が変な奴だったら。
戸惑う俺をよそに受け取ったのを確認するとにっこり笑って木の下に戻り腰を下ろす。立ち尽くしている俺に、また木の幹から顔だけ出して「ここ座ります?」と自分の隣りをポンポンと叩いた。
不意に風が吹いて、ザザア…っと木が枝を揺らした。
この時
俺はその大きな大きな木の魔法にかかったのかもしれない。
何故か、その笑顔に妙に惹き付けられて足が勝手に動いてた。
隣に腰を降ろすと彼女はこっちを見てふんわり笑ってから景色に目を移す。
「綺麗ですよね。ここから見える街並み」
街頭に照らされて映し出された彼女は暗がりで見た時よりもずっと綺麗。
俺の視線に気がついて、また柔らかい笑顔と共に「ん?」と小首をかしげるその仕草に心音が意志とは反して高鳴る。
”…ヤバい。”
久しぶりに本気でそう思った。
普段、女と目が合って小首をかしげられたくらいでこんなに動揺しないだろ。
そう…これは魔法。
今、俺たちを見守っている、この大きな木の魔法なんだ。
めちゃくちゃな言い訳を頭の中に並べて気を落ち着かせようとするけど、まっすぐ俺を見る彼女の瞳がとても綺麗で思わず顔を近づけてしまう。
いや…彼女の方から近づいて来た?
そう思った瞬間、彼女の手が俺の頭に伸びて来た。
「葉っぱが、ついてますよ」
くすくす笑いながら、俺の顔の前にそれを差し出す。
…酔わしといて、邪魔すんのかよ。
自分のしようとした事を棚にあげて、受け取った葉に少し八つ当たり。
そんな俺の気持ちを分かっていないであろう彼女は
「新緑でも風で落ちちゃうんですね」
笑いながら少しはだけていたブランケットを丁寧にかけ直してくれた。
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