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その後、暫く彼女は特に話しかけてこなかった。
木の前に座ってそこから見える街を互いに眺めているだけ。
それでも不思議と、隣に座る彼女と繋がっている気がしてとても心地よかった。
日が沈み、暗闇が写し出す街の灯りはとても綺麗に見えた。
どれくらいその景色を眺めていただろう。
…そういや、名前聞いてないな。
聞いていいのか?いや、いくら何でもそのくらいはOKだろ。
名前を聞くぐらいで戸惑ってる自分に笑える。
「あのさ、名前、聞いてもいい?」
一瞬驚いて俺の方を見たけどすぐにまた笑顔に戻る。
「美咲。深谷美咲です。」
…まじか。苗字同じじゃん。
「俺、深谷亮太って言うんだけど…」
「え?!苗字が同じなんですね!」
驚きつつも笑顔の変わらない…美咲、ちゃん。
「私達が結婚しても、変わらないですね!」
いたずらっぽく言う彼女に「確かに」って短く返したけど絶対顔がニヤけてる。
誤魔化す様に掌で口元を押さえて目の前の景色に目を向けると、隣で微かに息を吐く音が聞こえた。
「…まあ、苗字はもうすぐ変わっちゃいますけどね。」
「…え?」
再び見た彼女の表情は穏やかで唇が綺麗に三日月を描いていた。
「私、もうすぐ結婚するんだ。」
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