引力

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◇ それから俺たちは、ぽつり、ぽつりと、他愛も無い話をした。 「えっ!亮太さん、広告作っているんだ!凄いですね…」 「児童養護施設で子ども達と長い時間を共に過ごすって方がよっぽどすげーと思うけど」 「子どもと居るのは楽しいですからね。気がついたら一日終わってる感じ…。あ!そうだ、絵が上手い子が居てね…?」 「あーそれ、色味の問題かも。明るい所と暗い所だと色の見え方がさ…」 「なるほど…」 互いに仕事の職種が全く異なっているせいか、それぞれの仕事の話は盛り上がったけど、美咲の彼氏の話は全くしなかった。 そこを知った所で、どうしようもないし。 真剣に話をしたり聞いたり、笑い合ったり。二人だけの何とも心地良い今を大事にした方がいいって思ったから。 そうやってどのくらい時間が経ったんだろうか。 「やっぱり夜は冷え込むね」 腕をさすりながら、美咲が少しぶるっと震えた。 「結構厚着してきたんだけどな…」 俺がブランケットとっちまったからな。 「ん。」 膝にかけてたブランケットをはいで、美咲の肩にかけようとすると俺の腕を静止してそれを押し戻す美咲。 「いいよ。亮太さんの方が明らかに薄着だから。ホッカイロもあるし。」 いや、それで美咲が風邪をひいても困るんだけど。 じゃあ… 二枚折りになっていたブランケットを広げるとそれを俺から美咲まで覆うように背中にかけて、その肩を引き寄せた。 美咲が驚いて俺を見上げる。 「このままだと、押し問答になるだけでしょ?」 それに精一杯、紳士の笑顔を作って向けると美咲は何も言わずに恥ずかしそうにただ俯いた。 ”戸惑ってはいるけど、拒まずに俺の腕に収まってくれている。” それが嬉しくて、もう片方の腕を前からまわして彼女を抱き寄せた。 彼女から、かすかな甘い香りが届いて顎には彼女のふんわりした猫のような柔らかい髪の毛が触れている。風が運んで来る寒さが俺の腕の中にいる彼女のぬくもりを際立たせ、街の灯りに目を向けたまま、俺はそれに酔いしれた。 ◇
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