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世界の全てが真っ白になったかのような錯覚と、全身がバラバラになってしまうほどの衝撃。
寝心地のよいベッドで目を覚ました自分の記憶に残っているのはその2つだけ。
名前が分からないどころか、どんな家族や友人がいたのかどうかも、自分に関することが全部すっぽりと抜け落ちている感じがした。
「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」
そんな自分の傍で少女が1人、丸椅子に座って微睡んでいた。
「あの・・・・・・つっ!?」
声をかけようと身体を起こそうとしたら、背中からつま先にかけて鋭い痛みが走った。
見ると、片足がギプスで固定されている。
「くっ・・・・・・う・・・・・・」
「わ、動いちゃだめだよ、歩君」
痛みに呻く声に気がついた少女に手を貸してもらい、自分は何とか元の姿勢に戻ることが出来た。
「ありがとう。・・・・・・えっ・・・・・・と・・・・・・」
「あれ? ・・・・・・もしかして私のこと、分からないのかな?」
ぎこちない笑みで問いかける彼女に、申し訳ないと思いながら頷き、自分の名前も分からないことを話す。
「んー・・・・・・、運ばれてきたとき頭にすごい怪我をしていたし、もしかしたらとおもっていたけど、これはお父さんの予想通りってことかぁ・・・・・・」
「あの・・・・・・?」
1人で納得する少女に声をかけると、彼女は真剣な表情で一度頷いてこちらを見た。
「落ち着いて聞いてほしいんだけど、歩君は事故のショックで記憶喪失になってしまったみたい」
「はあ・・・・・・」
「あれ、あまり驚いていない・・・・・・?」
「いえ、驚いてはいるんですけど、自分について何も分からないし、何となくそうなんじゃないかと思っていましたから」
「そ、そうなんだ。こんなときでも、やっぱり歩君は冷静なんだね」
肩透かしでも食らったかのように、少女はぎこちなく笑う。
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