第1章

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 白い壁。最初、目に入ったのがそれだった。それが壁でなく天井だと気づいたのはしばらく後の事だった。  気づけばベッドに横たわっており、一体なぜこうして寝ていたのかわからない。  だが、重たい体が煩わしく、もう一度眠ればこの疲れも取れるだろうと目を閉じる。しかしその前に、肩をグワシと掴まれた。 「よかった! 起きてくれて!」 「いたっ!」  肩から始まり、全身を駆け巡った痛みに思わず声が出る。 「あっ、ゴメンね……」  僕の肩を掴んでいたのは女性であった。  気づかなかった……  見ると、サラサラと肩口まで伸びた黒のストレートが美しい女性だ。膝元にはカバーのかけられた文庫本が、開いた状態で伏せられている。  集中して本を読んでいたからその存在に気がつかなかったのだろう。 「えっと……ホントにゴメンね?」  僕がジッと見ていたのを勘違いしたのか、もう一度謝ってくる。僕が彼女を見ていたのは何も謝罪が足りないからとかいう理由ではない。 「あの……どなたですか?」  僕はダンプトラックに撥ねられて数週間もの間、生死を彷徨っていたらしい。その事故の後遺症か記憶が無くなっているようだが、僕には記憶がないという感覚はない。  ただ、もう一度同じような事が起こったとしてもこれだけは忘れない。僕が、どなたか尋ねた時の、彼女のあの表情は。
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