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私の中に黒い怒りが生じた。
私の右手の正拳が男の心臓を叩いた。次の瞬間には右のハイキックが男の側頭部に命中した。
男の頭が奇妙な角度に曲がった。
「サンディーア……」
男の鼻と口から血が溢れた。
『次からは気をつけなさい。あんたの両手両足はそのまま凶器になる』
警官の言葉が脳裏に浮かんだ。
男がゆっくりと膝をついた、ように見えた。
それは目の錯覚で、よく見ると男の体が溶け出していた。
私は目を見張った。男の頭はすでに肩に溶け込んでいた。指がポトリポトリと落ち、地面に吸われていく。
みるみるうちに男の体がしぼんでいき、最後には服と靴だけが残った。
私はため息をついた。
今までは「私が何者か」が分からなかったたが、今では「私が何か」さえ分からなくなっていた。
冷たい風の中で、私は再び襲ってきた『絶望の顔』を見た。
過去も未来も吹き飛ばすような強い風が吹き、男の着ていた服を闇の中に持ち去っていった。
- 了 -
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