観音の救急箱

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 今年82歳になる叔母は、46歳の時、舌癌を患いました。  癌の転移を防ぐため、舌のほぼ半分を手術で切除することを医師から勧められましたが、叔母は即座にそれを拒否しました。そんな〈トカゲのしっぽ切り〉めいた処置で癌が根治するとは考えにくく、体にメスを入れられることにも強い抵抗を覚えたそう。    それっきり彼女は病院へは行きませんでした。  常識的にみれば、「無謀」かもしれません。が、そのおかげで叔母は今日も元気に、自分の経営する書道塾で生徒さん達の指導に当たっています。  ところで、叔母は若い頃、女優のブリジッド・バルドーに顔立ちが似ていると評判だったそうです。  けれど、私の記憶の中にいる彼女は、いつも眉間にシワを寄せ、口を開けば批判や悪口。時には気性の激しさをむき出しにし、周りの人達を閉口させていました。  おとなしい性格の私の母は、よく叔母にやりこめられて悔しい思いをしていたようです。正直、〝母をイジメる意地悪な小姑〟のようなイメージを、子供の頃は抱いていました。  その叔母が今では・・・、常に微笑みをたたえ、まるで観音様のようなたたずまいで、温かい空気をかもし出しています。(人はこんなに変われるものなんだ!)  自らの知恵と心の声に従って癌を克服し、本当の健康を手に入れた叔母。  彼女が実践してきた治療法は、病気の人のみならず、すべての人の心身に大きなエネルギーを吹き込んでくれることでしょう。  それはいったい、如何なるものか――。これから紹介していきたいと思います。  舌癌の宣告を受けた時、叔母の脳裏を、ふと「毒舌」の二文字がよぎりました。自他ともに認める毒舌家の自分の舌が、文字通り毒にまみれているのを感じ、慄然としたそうです。  ――私が周囲に放ってきた、冷たく突き刺さる刃のような言葉の数々は、他人を傷つけただけでなく、自分自身に盛った毒でもあったのだ――  ――「今までのような生き方ではいけない」って癌が警告してくれたように思うの。だから、この先、私が口にするすべての言葉、心に抱くすべての思いは、他人にとっても自分にとっても心地よいものにしようって、誓ったんよ――  その気づきが、その後の叔母の人生を方向づけたのです。
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