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舌癌を克服するため、叔母が〈読経〉と合わせて実践した(現在も定期的に行っている)もう一つの治療法が〈断食〉です。
叔母はまず一週間何も食べず、自宅の裏手に湧き出る原水だけを飲んで過ごしました。ミネラルや自然の栄養素を存分に含んだ湧水のおかげでしょうか。思いのほか空腹は覚えず、むしろ、えも言えぬ爽快感が心身を満たしていくのを感じたそう。
「人を育てる本当の栄養はねえ、水と空気とお日様の光なんよ。いい水飲んで、気持ちを変えて働いたら、チン細胞さん達もいつのまにか姿変えちゃった」(「ガン」という響きはよろしくない。珍しい細胞だし響きが可愛いからという理由で、叔母は親しみを込め、癌細胞を「珍細胞」と呼びます。)
私など〈断食〉と聞くと、肋骨がくっきり浮き出た痛々しい修行僧の姿がイメージされ、恐怖すら覚えたもの。1~2日のプチ断食なら簡単にできるしウエストが引き締まるよと友人に勧められても、腹部の脂肪が気になり出しても、(〝食べる〟という人生最大の喜びに蓋をするなんてありえない!)とそっぽを向いていました。
でも、実際にやってみるとわかります。〈断食〉とは、欲望を断って貧しくなることではなく、本当の栄養を得て豊かになることだと――。
断食の実践者となった今では、飲食に溺れ、多大な身体エネルギーを消化に費やしていたかつての自分にため息が出ます。満腹後は必ずや睡魔に襲われ、知性にスイッチが入らず、愚鈍さが常態となっていたことにも気づきませんでした。
断食で力を得た背骨はまっすぐ空へ向かい、一週間で身長が2センチ伸びたという叔母。(まるで向日性の植物!)
自己の大いなる変質と再生。そして、チン細胞を含むいのち全体がプルプルと喜びに震え出すのを感じる幸せ――。
かくして言葉が生んだ猛毒は美しい言葉によって相殺され、悲惨な体内環境は水と断食によって浄化され、宣告を受けてから半年後、叔母の癌は完全消失していたのでした。
自力で回復を遂げた意志の強さもさることながら、叔母には自分の〈直感〉や〈ひらめき〉といったものを否定せず、それに従う勇気がありました。
たとえそれが社会の常識や慣習から大きく外れたことであっても、窮地にある時こそ他人や情報に翻弄されず、自分の声に耳を澄ませと、叔母は身をもって私に教えてくれた気がします。
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