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まぶたを開くと、真っ白な世界が広がった。
ここはどこだろうという疑問とともに、自分の中で誰かの声が響いた。
――――れい、れい、、、。
あたたかい声。
だが、何を意味するのか理解することは出来ない。
私は意識を手放した。
***
彼女が目覚めたようだ。
彼女がいる部屋の隣室で脳波を確認し、彼女に意識が戻った事がわかった。
いや、意識が戻ったというよりも目覚めたという方がふさわしいだろう。彼女は、生まれ変わったのだから。
***
再び目を覚ますと、私の横たわるベットの横に白衣を着た男の人が立っていた。
真っ白だったのは、ここが病室だからなのか、と思う。少し違和感を覚えながらも納得する。
どうして病室だと判断できるかはわからないのに、病室がどんな場所であるかはわかる。とても不思議だ。
「君は自分の名前が分かるか?」
突然質問を投げかけられ口ごもった。
なんだか、雰囲気はわかるのに言葉が出てこない。気持ち悪さを覚える。
「わからない」
何を答えればいいかわからなくて、いつの間にかそう答えていた。
思ったよりも自分の声が無愛想に聞こえ、少し驚く。
思い出せる限り、私は初めて声を出した。
男の人――医者なのだろうか――が私の答えを予想していたように大きく頷く。
「君は、全生活史健忘。つまり記憶喪失だ。すぐに全部思い出せるだろう」
ああ、そうか。私は記憶喪失なのか。
そう聞かされても、何も思わなかった。自分の記憶は失くしても、記憶喪失という言葉の意味はわかるのだなと、やはり不思議に思う。
ただ、彼の言葉はやけに自信満々だな、と思った。
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