忘れっぽいあなたへ

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 あ、目が覚めたみたいですね。  おはようございます。私の事が、分かりますか?  そう、ですよね。分からないですよね。  ああ、そんな申し訳なさそうな顔をしなくてもいいですよ。あなたが記憶喪失だって事は、この病院の中では割と有名な話ですから。    え、私ですか?  ……いいじゃないですか、私の事なんて。ただの通りすがり、通行人Aです。今のところは。  今まで出会った事があったか、ですか?うーん。それも秘密です。  そうですよ、謎の多い女ですから、私は。  女はミステリアスなほうが魅力的だって、えっと、本で読みましたから。    まぁ、そんなことは置いておいて。怪我の具合はどうですか? 頭に包帯を巻いていますが。  軽傷? それは良かった。頭って、ちょっとした怪我でもどばっと血が出ますから、びっくりしますよね。私も一度やっちゃって、リビングを血の海にしたことがありました。  あの時のお母さんの慌てっぷりと言ったら、今思い出しても申し訳なく思うくらいでした。    あれ、どこを見ているんです? 乙女の体を注視するのは、あまり褒められた行為ではないと思うのですが。  ……ああ、この包帯ですか。 いえ、気にしないでください。目立ちますよね、やっぱり。  ちょっと、交通事故に遭いまして。ガソリンに火がついて、体中大火傷なんですよ。せっかくの美人が台無しですよね。  そんな顔しないで下さい。私は、この怪我が少しだけ嬉しいんですから。  変ですか? 私もそう思います。けど、本当の事ですから。  あ、もうこんな時間。ごめんなさい、もう少しで検診の時間でした。そろそろ行かないと。  お話し、楽しかったです。ご迷惑じゃなかったですか? ん、それは良かった。  あの、差し出がましいお願いだとは思うんですが  ……また、来てもいいですか? ―――――  こんにちは、また来ちゃいました。  今日はいい天気ですね。ほら、川沿いの桜が咲いてます。  春って、出会いと別れの季節だって言いますよね。今の私たちにぴったりだと思いませんか?  あ、頭の包帯、取れたんですね。何よりです。私のほうは、もうちょっとかかるみたいで。  ふふ、不気味でしょう。怪奇、包帯女ですよ。枕元に立ちますよ。意味もなく曲がり角からスッと現れますよ。
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