1人が本棚に入れています
本棚に追加
あ、目が覚めたみたいですね。
おはようございます。私の事が、分かりますか?
そう、ですよね。分からないですよね。
ああ、そんな申し訳なさそうな顔をしなくてもいいですよ。あなたが記憶喪失だって事は、この病院の中では割と有名な話ですから。
え、私ですか?
……いいじゃないですか、私の事なんて。ただの通りすがり、通行人Aです。今のところは。
今まで出会った事があったか、ですか?うーん。それも秘密です。
そうですよ、謎の多い女ですから、私は。
女はミステリアスなほうが魅力的だって、えっと、本で読みましたから。
まぁ、そんなことは置いておいて。怪我の具合はどうですか? 頭に包帯を巻いていますが。
軽傷? それは良かった。頭って、ちょっとした怪我でもどばっと血が出ますから、びっくりしますよね。私も一度やっちゃって、リビングを血の海にしたことがありました。
あの時のお母さんの慌てっぷりと言ったら、今思い出しても申し訳なく思うくらいでした。
あれ、どこを見ているんです? 乙女の体を注視するのは、あまり褒められた行為ではないと思うのですが。
……ああ、この包帯ですか。 いえ、気にしないでください。目立ちますよね、やっぱり。
ちょっと、交通事故に遭いまして。ガソリンに火がついて、体中大火傷なんですよ。せっかくの美人が台無しですよね。
そんな顔しないで下さい。私は、この怪我が少しだけ嬉しいんですから。
変ですか? 私もそう思います。けど、本当の事ですから。
あ、もうこんな時間。ごめんなさい、もう少しで検診の時間でした。そろそろ行かないと。
お話し、楽しかったです。ご迷惑じゃなかったですか? ん、それは良かった。
あの、差し出がましいお願いだとは思うんですが
……また、来てもいいですか?
―――――
こんにちは、また来ちゃいました。
今日はいい天気ですね。ほら、川沿いの桜が咲いてます。
春って、出会いと別れの季節だって言いますよね。今の私たちにぴったりだと思いませんか?
あ、頭の包帯、取れたんですね。何よりです。私のほうは、もうちょっとかかるみたいで。
ふふ、不気味でしょう。怪奇、包帯女ですよ。枕元に立ちますよ。意味もなく曲がり角からスッと現れますよ。
最初のコメントを投稿しよう!